BCPとは何なのか、なぜBCPが必要なのか、というのはなかなか難しいと感じられやすい部分です。ここでは、日本での自然災害リスクを踏まえて、わかりやすくBCPの説明をします。

自然災害は将来確実に発生する

日本は世界有数の自然災害大国です。

日本列島は4枚のプレートが重なり合う境界にあるため、そのひずみで地震が多く津波も発生します。また、プレート境界に位置するため火山も多くなります。(下図参照)

太平洋に面しているため、チリ等の1万キロ以上遠く離れた場所で発生する津波も押し寄せます。

日本列島はちょうど偏西風に流される台風の通り道にあり、台風被害も多く発生します。

国土の大半が山でしかも雨も多いので、毎年のように土砂災害洪水等の災害が発生します。

「うちの会社は海も山も遠いし高台だから大丈夫」と思ってらっしゃる方も多いですが、自社が直接被害を受けなくても、取引先が被害を受けたり、道路の寸断等でロジスティクスが滞ったりする可能性もあります。

歴史を振り返ると、南海トラフ等の海溝型地震とそれに伴う大津波・富士山等の火山の大噴火・大水害などの自然災害が繰り返し発生してきました。そして、残念ながらそれは今後も確実に発生することが科学的に明らかにされています。

南海トラフ大地震は30年以内に70~80%の確率で発生すると言われています。南海トラフのような海溝型地震は徐々にエネルギーをため込んでいくので、運よく30年以内に発生しなかったとしても、次の30年でほぼ確実に発生します。

これは、積み木をどんどん積み上げていっているようなものです。積み上げる高さが高いほど不安定になり崩れやすくなります。遅かれ早かれ積み木は崩れ落ちます。これとまったく同じことが今この瞬間にも海底のプレートで起こっているわけです。

南海トラフ大地震のしくみやリスクについては下記記事で詳しく解説しています。

南海トラフ巨大地震のしくみ

残念ながら、南海トラフ大地震はそう遠くない将来、確実に発生します。この他にも、毎年のように全国各地で風水害や地震等の被害が発生していますので、今後も同じことが繰り返し発生することは明白です。

企業には、このような将来確実に発生する自然災害から社員の命や事業を守るための対策が必要です。

企業の災害対策の2つの視点

それでは、企業が自然災害から身を守るにはどのような対策が必要でしょうか。

これには次の2つの視点があります。

  1. 自然災害から人の命や財産を守るという視点
  2. 自然災害を乗り越えて事業を継続するという視点

1つ目は、自然災害から人命を守るための活動、つまり防災活動です。

企業には、社員はもちろん来訪者や地域住民の安全を守るという社会的・道義的責任があります。これは家庭などの防災と基本的な考え方は同じです。例えば、備蓄品の準備や建物の耐震化、書棚の転倒防止対策等があります。

2つ目は、企業の事業を継続するための対策です。

企業というのはある特定の事業を実施するために存在するのですから、災害が発生してもそれを乗り越えて事業を継続する必要があります。もし長期間事業を中断してしまうと、顧客が他社に流れてしまったり、売上ストップにより社員に給料が払えなくなったり、最悪の場合倒産してしまいます。特に医療分野などの人の生命に関わる事業やインフラ関係の事業は絶対にストップするわけに行きません。

事業中断を防ぎ、早期復旧を目指すには、あらかじめ事業を継続するための対策を準備しておく必要があります。この準備のことをBCP(事業継続計画)と言います。

Business Continuity Plan

事業   継続   計画

つまりBCPは、自然災害などの緊急事態が発生しても、組織が事業継続するための計画です。

BCPと防災の関係

ここまでは、BCPの説明をわかりやすくするため、あえて防災活動とBCPを分けて説明しました。

しかし実際には、BCPという活動を行うためには、その前提として命や財産を守るための防災活動が必要です。当たり前のことですが、死んでしまっては事業を行うことはできません。

防災活動として実施する内容は、視点を変えればBCPの活動と考えられる場合も多くあります。例えば、棚の転倒防止という防災対策は復旧の負担軽減にもつながり、事業復旧が迅速に行えます。

このように防災とBCPは切り口が違うだけで、共通する活動が多くあるのです。

もっとも、BCP特有の活動も多くあります。次はその具体例を紹介します。

BCPの対策の具体例

BCPの活動は、事業継続・早期復旧に役立つ活動でなくてはなりません。しかし、何が事業継続に役立つのかは企業ごとの特有の様々な事情で違ってきます。つまり、企業によって必要なBCPの対策内容は大きく異なります。取引先等の他社の見よう見まねでBCPを策定する企業が少なくありませんが、これは策定失敗の典型例です。

とは言うものの、全く具体例がないとイメージもしづらいでしょうから、2つの例を紹介します。1つ目はほとんどの企業で必要な対策、2つ目はある特定の企業でのみ必要な対策です。

1.緊急時の連絡体制の整備

平常時にはなかなかイメージしにくいですが、災害時には通信回線混雑により、通常より情報収集に時間がかかります。しかし、企業としてはできるだけ早く社員や顧客、仕入先などの情報を入手する必要があります。情報がないと復旧しなければならない事業が何かもわからないためです。

まずは顧客や社員などの緊急連絡先をリスト化しておく必要があります。社長や部門責任者などの被災を考慮して、緊急時には誰でもすぐに見られるような工夫も必要です。

確認先が多い場合は、リストを作るだけであらかじめ誰がどの連絡先を担当するかも決めておくと復旧がスムーズに行きます。

なお、よく似たものに

2.非常用電源の準備

緊急連絡体制の整備はほとんどの企業で必要な対策です。しかし、先に書いたように企業独自の事情を考慮した対策も多くあります。

人の生命に関わる事業は絶対に中断できません。例えば、病院で利用する医療用の酸素ガスが途切れてしまうと、酸素を必要とする入院患者が生命の危機にさらされます。こんな事情があれば、酸素ガスの製造メーカーは絶対に事業を停止することができません。

酸素ガスの充填作業には電力を使いますので、地震等で停電が発生しては供給はストップしてしまいます。このような問題が生じないように、非常用電源の準備をしておく必要があります。

ただ単に電源を準備するだけではなく、非常用電源を利用した充填訓練や、非常用電源のメンテナンスの継続も重要です。

このように、BCPの対策の多くは企業の事業態様や環境によって大きく異なります。企業特有の事情を考慮して、事業継続のためには何が必要なのかを十分に考慮した上でBCP策定を進めていく必要があります。

BCP策定のプロセスについては下記記事をご覧ください。

BCP策定の流れ

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