災害時に会社が備蓄すべき非常食の量は従業員数×3日分とするのが一般的です。これに対して「3日分の備蓄は必要ない、過剰である」とする意見がよく聞かれます。

防災・BCP対策というものは、非常時の対策だけでなく平常時のコストについても考慮する必要がありますから、非常食の備蓄コストはなるべく減らしたいものです。そのため、実際に必要となる分量をある程度想定することもコスト対策として必要になってきます。「3日分は過剰だ」との意見はそのようなコスト意識に由来するものでしょう。しかし、果たして本当に3日分では過剰なのでしょうか。

3日分が過剰だとする意見は、社員の多くが早期に帰宅することを想定しています。大地震等の災害時には、社員自身の気持ちとしては、家や家族がどうなっているのか気になるはずですから、できるだけ早く帰りたいと考えます。また、初動対応体制・BCP体制発動時には平常業務は中断され、初動対応やBCPに必要のない余剰人員は帰宅させることになります。初動対応からBCP移行には一般的に発災後24時間以内に行われることを目指しますから、会社に3日間も社員全員が残ることは考えにくい、したがって3日分の備蓄までは必要ない、というのです。

この意見は阪神淡路大震災や東日本大震災などの過去の経験を踏まえて考えているようで、一理あるとは思います。しかし、南海トラフ大地震について同じことが言えるでしょうか。南海トラフ大地震は30年以内発生率が70-80%とされています。

南海トラフ大地震では高知から静岡にかけて太平洋側の広大な範囲に甚大な被害をもたらすことが予想されています。当然被災者の数は東日本大震災をはるかに上回ります。そうなると、被災者支援活動も東日本大震災と比べて大きく遅れることが予想されます。(残念ながら国や地方自治体が迅速に対応する準備ができているとは思えません。)

実際、日本政府は、家庭で非常食を1週間分以上備蓄するよう呼びかけています。阪神淡路大震災や東日本大震災の経験からは考えられない期間です。これが不十分な社員がいれば会社の備蓄を頼ってくる可能性があります。また、3日以内に多くの社員が帰宅するという見込みは根拠に乏しく、見積りが甘いように感じます。

また、企業の業種や立地環境によっては、周囲の飲食店やコンビニの食料品が枯渇し、いわゆる帰宅難民が食料品を求めて訪れることも考えられます。防災は共助が基本ですから、このような要望に対応できるよう準備しておくことも必要と考えることもできます。

非常食の過剰な備蓄は確かにコストです。それを最小限に収めようという考え方もわかりますが、南海トラフのインパクトをまともに受ける可能性を考えるのなら、「3日分では過剰」と断定してしまうのは危険と言わざるを得ないでしょう。