南海トラフ巨大地震は30年以内に70~80%の確率で発生すると言われている巨大地震です。なぜこれだけ高確率で発生が予想されているのか、被害はどの程度となるのか、発生に備えてどのような準備が必要となるのかを解説します。
そもそも南海トラフとは?
南海トラフ巨大地震という言葉はニュースや新聞でよく見かけますが、そもそも「南海トラフ」が何なのかが説明されることはほとんどなく、ほとんど知られていないように思えます。南海トラフが何なのかを知れば、おのずと巨大地震が発生する理由も明らかになってきます。
「トラフ(trough)」とは、英語で「谷」という意味です。海底にある谷のことをトラフと呼んでいます。トラフは世界中に存在しますが、日本列島の静岡から四国の南側の海底に存在するトラフのことを南海トラフと言います。海底の深さがわかる地図やGoogleマップの航空写真等で、西日本の南側に急に深くなっている箇所、下図(Googleマップより引用)の赤で囲ったところが確認できます。これが南海トラフです。
ではなぜこのような地形ができるのでしょうか。
少し話が変わりますが、地球の表面は一見1つの岩盤で覆われているように見えます。しかし、実は地表はいくつかの岩盤層(プレート)に分かれています。全体にヒビの入ったゆで卵に近いイメージです。(下図はWikipediaより引用)
上の図の左側にユーラシアプレートとフィリピン海プレートがありますが、その境目北側が南海トラフです。
南海トラフは、こプレート同士の境界に位置しています。陸側(日本列島側)のプレートをユーラシアプレート、海側のプレートをフィリピン海プレートと言います。
南海トラフ巨大地震発生のしくみ
ただ単にプレートの境界があるだけなら問題ないのですが、実はプレートはゆっくりと動いているのです。フィリピン海プレートは年に3~5cmというゆっくりとしたスピードで徐々に陸側のプレートの下に沈み込んでいっているのです。
フィリピン海プレートは沈み込む際に陸のプレートを一緒に引っ張り込んでしまいます。
しかし、フィリピン海プレートが引っ張りこむに連れて、陸のプレートも元に戻ろうとする力が強くなってきます。これが限界まで来ると、一気に陸側のプレートが滑りあがるか、プレートの一部の破壊が起きます。これが南海トラフ巨大地震発生の瞬間です。
イメージしやすいように身近なものを使った例を挙げます。
プラスチック製の両端を持って軽く折り曲げてみてください。定規は少しだけ曲がります。しかし、力を抜くとまっすぐに戻ります。定規が歪みを元に戻そうとする力が働くからです。
では、定規をもっと強い力で折り曲げるとどうなるでしょうか。定規はさっきより大きく曲がりますが、元に戻ろうとする力もより強くなるはずです。
では、さらに力を入れていくとどうなるでしょうか。徐々に定規の歪みは大きくなっていきますが、元に戻ろうとする力も強くなっていきます。そのまま力を入れ続けると、やがて定規は折れてしまうか、手を滑らせて落としてしまうかのどちらかでしょう。
プレートの境界ではこれと同じことが起こっているのです。
南海トラフ巨大地震の発生は時間の問題
今現在この瞬間もフィリピン海プレートは沈み込み続け、陸のプレートも徐々に引き込まれていっています。プレートの動きは何百万年も前から変わらずに続いてきたことです。
過去には約100年~150年程度の周期で南海トラフ巨大地震が発生しています。そして、フィリピン海プレートが変わらずに動き続けている以上、今後も同じ周期で繰り返し地震が発生します。
これは例えて言うなら、風船に際限なく空気を注入し続けているようなものです。風船に空気を入れ続けると必ずいつかは破裂します。それが正確にいつかはわかりません。しかし空気を止めない限り必ず破裂します。
人類にプレートの動きを止める術はありません。南海トラフという風船は必ずいつか破裂するのです。
「南海トラフ巨大地震は必ず発生する」という現実を受け入れることの重要性
以上の話は決して脅しているわけではなく、「地震というのは必ず起こるものなのだ」という現実をまずは知っておいてほしいという趣旨のものです。
ときどき「地震なんて起こらなければいいのに」という声を聞くことがあります。しかし残念ながらそれは起こりえないことです。自然災害は必ず起こるという現実を受け入れることができて初めて、防災対策が始まります。
「防災対策は重要だと思いますか?」と聞くと大抵の人は「そう思う」と答えます。
しかし、実際に対策をしている人はそれほど多くはありません。これはある程度は仕方ないことだと思います。多くの人は命にかかわる自然災害を経験したことがありませんし、どのような備えが必要かもわかりにくいため具体的な行動に出るのは簡単ではありません。
必ず発生する自然災害に対して何も対策していないと多くの犠牲が発生します。それを減らすには、この現実を少しでも多くの人がリアルに受け入れることが必要です。
次のページでは、南海トラフ巨大地震が発生した場合の被害想定について解説します。
南海トラフ巨大地震の被害想定と企業が取るべき対策(準備中)