企業の総務・防災担当の方が、企業防災の観点から防災備蓄品を備えるのに参考となる情報や知識を紹介します。

なるべく多くの企業に当てはまるように様々な防災備蓄品を紹介していますので、企業によっては必要のない備蓄品も存在すると思われます。ですので、「わが社ではどうだろう」という視点を持って読み進めていただき、効果的な備蓄の実践にお役立ていただければ幸いです。

水・食料は最低でも1週間分を備蓄しよう

 

1週間分の備蓄食料って多くない?と思われるかもしれません。しかし、今後の巨大災害のことを考えると3日分では不十分となる可能性があります。

阪神・淡路大震災や熊本地震のような直下型地震では、被害の範囲が狭く救援物資は比較的早く届きます。むしろ救援物資の振り分け作業が追いつかず被災地の受入体制がパンクしてしまうくらいです。

ところが、東日本大震災のような規模の大きな海溝型地震では被害の範囲が広くなります。そうなると救援物資を必要とする範囲が広く、しかも道路の被害も広大となるため、なかなか救援物資が届かないという状況が考えられます。

南海トラフ大地震では東日本大震災をさらに大きく上回る被災が予想され、救援物資も長期間不足することが予測されます。実際、南海トラフ大地震を想定した場合について、政府は1週間分の食料を備蓄することを推奨しています。

阪神淡路大震災や東日本大震災の経験から、経費節減のため備蓄を3日分で十分とする見解も一部で見受けられますが、全く異次元の被害が想定される南海トラフ大地震についての配慮を全く行っていない不十分な見解と言わざるを得ません。

  阪神・淡路大震災 東日本大震災 南海トラフ(予想)
マグニチュード 7.3 9.0 8.0~9.0
死者・行方不明者数 6434人 18434人 最大32万3千人
避難所生活者 約31万人 約47万人 最大950万人

救援物資は被害の激しい所から届きますので、地震での被害が比較的小さな地域でも、食料がないのに救援物資が届かないという状況が発生することも考えられます。そのため、十分な量の食糧を備蓄することが必要です。

BCP(事業継続計画)に必要なメンバーは1週間以上の長期滞在も考えられます。BCPメンバー以外は帰宅させるとしても、やはりある程度余裕を見て備蓄することが必要になってきます。

※BCPについて詳しくはこちらで解説しています。

水は1人1日あたり2~3リットル必要

 

水は生命維持に欠かせない、最も重要な備蓄品です。1人が1日生活するのに必要な水は2~3リットル必要と言われています。

1週間分備蓄するとすれば人数×20リットル程度必要になるということになります。もっともこれは水だけで用意する必要はなく、野菜ジュースやスポーツドリンク、ジュース等の水以外の飲料を含めた量になります。

備蓄用飲料水には、普通のペットボトル飲料と同じで2リットルと500mlがある場合が多いですが、500mlをおすすめします。500mlの方が割高になりますが、社員に配布するのが簡単でコップがなくても飲みやすいというメリットがあります。

つまり、1週間分の水を用意するとすれば、社員一人につき500mlのペットボトル40本の備蓄が必要と言うことになります。10人で400本、50人では2000本ということになりますから、十分な備蓄スペースが必要となります。後述するようにウォーターサーバー等を導入することである程度備蓄品を減らすことも可能ですので工夫してみてください。

防災備蓄品はローリングストック法で管理してコスト削減

ローリングストック法とは、日常的に利用する物の在庫をそのまま災害時の備蓄品として利用することです。つまり、常に一定以上の在庫を確保して品切れとならないように利用することです。

ローリングストック法の優れている点は、一つの導入コストで日常利用と災害時利用の両方を兼ねて一石二鳥とできる点です。防災備蓄品は必ずしも災害専用と考える必要はありません。日常的に利用しているものでも防災備蓄品として活用できるものはどんどん活用していきましょう。

以下では、企業でローリングストック法を活用できそうな例を紹介します。

1.ウォーターサーバーの導入

企業でよく利用されているウォーターサーバーもローリングストック法として見ることができます。

ウォーターサーバーの水の在庫は災害時にそのまま備蓄飲料水として活用できるので便利です。福利厚生と防災備蓄品を兼ねた一石二鳥の対策と言えます。

新たに導入する場合は、冷水だけでなくお湯が出るタイプをおすすめします。

2.災害対応自販機の設置

災害対応自販機とは、災害発生時に在庫の飲料を全て備蓄品として利用することができる自販機です。最近では街中でも見かけることが多くなってきました。

オフィス内に自販機を設置されている企業は多いですが、設置する自販機を災害対応自販機に置き換えるだけなので追加コストは必要ありません。もし、新たに設置するなら、備蓄できる上に収入も増えてしまうという一石二鳥の対策です。

備蓄食料は美味しいものを種類を多く用意しよう

防災備蓄食料というとどのようなものをイメージするでしょうか。世代にもよるでしょうが、乾パンをイメージする方も多いのではないでしょうか。

しかしよく考えてみてください。被災したときに自分の好着な食べ物と乾パン、どちらを食べたいでしょうか。今の時代保存食は劇的に進化しています。あえて美味しいと思わない物を選ぶ必要は全くありません。

実際に被災してみなければイメージが湧きづらいかもしれませんが、1週間も味気ない非常食ばかり食べていれば後の方で飽きがきて食べるのが辛くなってきます。

しかし、食欲がない等と言って食べるのをやめてしまうと元々災害で負担の大きい健康にさらに追い打ちをかけてしまうことになります。

ですから、とにかく美味しいと思うものを準備するようにしてください。「非常時ならば食べられるだけでも御の字」という気持ちを無意識に持ってしまう面もあります。しかし、刑務所の食事もまあまあ美味しいと言われる今の時代、あえて不味い非常食を選ぶ必要はありません。

とは言ってもどんなものが美味しいかは人の好みによって様々です。好みを確かめるには直接被災者、つまり今の社員に聞くしかありません。そのためには、アンケートの実施や後述する試食会の開催、費用を会社で負担して各自食べ比べるように指示したりすると効果的です。

備蓄食料にはもう一つポイントがあります。それはできるだけ多くの種類を用意することです。

たとえ美味しいものでも毎日同じものを食べていれば他の物が食べたくなるということは日常的にも経験があると思います。非常食はどうしても傾向の似たものになってきますので、できるだけ変化をつけることが重要になってきます。

この違いは些細なところでも効果があります。例えば、同じカップラーメンでも、しょうゆ味を30個とせずにシーフード味やカレー味を10個ずつ混ぜるだけでかなり違います。

暖かい食事もとれるように工夫しよう

防災備蓄食料は、ライフラインが寸断された状態を想定しているため、水で戻すだけで食べられるアルファ米や缶詰等の冷たい食事ばかりになってしまいがちです。

しかし、3日ほど冷たいものばかり食べていると、暖かいものが食べたくなってきます。学生時代に同じ食事ばかりで嫌になった経験のお持ちの方もいらっしゃると思いますが、それと似たような状況です。そうならないように食事を温めたりお湯を沸かすためのカセットコンロを用意しておくことをおすすめします。

また、レトルト食品を水なしで温められる便利な食品加熱用パックもあります。原理は使い捨てカイロと同じですが、100度近い高温となりますのでレトルト食品を温めるには十分です。

社員にも防災備蓄や防災対策を呼びかけよう

せっかく会社で防災備蓄品を用意するのなら、その機会に社員にも家庭での防災備蓄品や防災対策を呼び掛けることをおすすめします。家庭の防災は「いつかやらないと」と思いながら結局災害発生後に後悔するパターンが多くあります。きっかけさえあれば動きだす人も社員の中にはいるはずです。

就業時間中の対策でも社員一人ひとりがするべき対策もあります。

就業時間中に被災した場合には、靴が革靴やハイヒールしかないという方もいらっしゃいます。オフィスに長時間滞在するのに負担になってしまいます。このような方にはなるべく会社に運動靴を常備しておくよう呼びかけるのが効果的です。これには社員を帰宅させる場合のことを考えてもメリットとなります。

また、過去の震災では眼鏡やコンタクトレンズを付けている方の多くが、裸眼での被災生活に苦労しています。古い眼鏡は捨てずに自宅や会社等に分散して保管しておくよう呼びかけることも重要です。

防災備蓄食料の試食会をしよう

防災備蓄食料は、通常の食品と比べて賞味期限が長く設定されています。とはいえ、防災備蓄の長いスパンで考えるものですから、ときどき新しいものと入れ替える必要があります。

この時古くなった備蓄食料で社内試食会を開催するのをおすすめします。上で書いたように、防災備蓄食料はできるだけ美味しいものを用意すべきと言えます。しかし、人によって好みの個人差がありますから、実際に社員さんに食べてもらい、評判を聞いて、次回の備蓄品購入の参考とすれば効率的に美味しい非常食が備蓄できます。

防災備蓄食料の試食会の開催は、備蓄食料の賞味期限の管理と兼ねられる他、社員さんの防災意識の向上にも役立ちます。

試食会で防災意識向上や適切な備蓄の議論のきっかけとするのを狙うのであれば、必ずしも賞味期限の長い備蓄品を準備する必要はありません。むしろ、備蓄候補の幅も広がりますから短いものとした方が良いという考え方もできます。

防災備蓄品の保管場所を工夫しよう

意外に軽視されがちなのが備蓄品の保管場所や保管方法についてです。

当たり前のことですが、備蓄品は災害時に利用可能であって初めて価値が生まれます。しかし、災害時に備蓄品を利用しやすくする工夫をされている企業は意外に少ないように思います。

多くの企業が防災備蓄品の仕分けをせずにまとめて倉庫の奥深くにしまい込んでいます。これでは担当者以外はどこにどんな備蓄品があるかわかりませんし、災害時に取り出せないかもしれません。

防災備蓄品保管のポイントは3つあります。

  • 社員が備蓄品の種類や配置場所を把握しているか
  • すぐに使える場所に保管されているか
  • 備蓄品自体が被災しないか

まず、備蓄品を導入した際はその種類や配置場所を周知する必要があります。担当者が外出中に被災した場合に誰も備蓄品の種類や場所を知らないと全く意味がありません。

配置場所や種類、食料については賞味期限をリスト化し社員に配布すると、社員の防災意識の向上効果も期待できます。

備蓄品をまとめて保管する必要などまったくありません。被災時に使うことを想定して、個々に最適な配置場所を決めてください。例えばヘルメットや非常用持ち出しセットは購入した時点で社員に配ってしまった方がいいでしょう。

配置場所を考えるときは備蓄品自体の被災にも注意してください。備蓄品そのものが被災してしまっては備蓄していた意味がありません。例えば、ドアをこじ開けるのに使うためバールを買ったのに、それが歪んだ鉄扉の倉庫の中にあると何のために準備していたのかわかりません。

AEDをなるべく準備しよう

AED(自動体外式除細動器)とは、心停止した人を助けるための道具で、医療関係者ではない素人でも利用することができるのが大きな特徴です。

AEDは普及が進み、駅やコンビニで見かけることも珍しくなくなりました。オフィス内に導入を進めている企業も多くなってきています。

災害時に限らず使われる可能性のあるものですから、予算が許すなら1台導入することをおすすめします。

AEDは全く初めての人でも使えるように配慮して設計されていますが、できれば一度は使い方を確認しておいた方がいいでしょう。バッテリー使用期限は3~5年程度ですので定期的なメンテナンスも必要です。

簡易トイレを準備しよう

断水してしまうとトイレの水が流せなくなりますから、復旧までは簡易トイレを用意する必要があります。

簡易トイレというとアウトドア用の携帯用トイレや組み立て式のトイレをイメージする方も多いですが、組み立て式トイレでなくても、水洗トイレの洋式便器を利用した簡易トイレを設置することもできます。この場合は便座と便器の間にゴミ袋を設置します。

組み立て式でも従来の便器を使う場合でも、凝固剤を準備しておく必要があります。凝固剤には粉末タイプとおむつのようなシートをあらかじめ下に敷いておくタイプがありますが、シートタイプは廃棄時かさばりやすいので、ある程度の人数以上の企業であれば粉末タイプがおすすめです。

会社で寝泊まりすることを想定して寝具も準備しよう

交通機関の麻痺や自宅の被災等で一時的に会社に寝泊まりする必要があるかもしれません。

会社で寝泊まりすることになった場合のことを考えると寝具を用意する必要があります。

毛布だけを用意して椅子で寝ることを想定している企業もありますが、椅子で寝るのでは十分に疲れが取れません。1日だけならともかく、数日間椅子で寝るのは現実的ではありません。

新潟県中越地震では車中泊避難をしていた人がエコノミークラス症候群やストレスの影響で亡くなっています。

掛け毛布だけではなく敷くものも必要になります。おすすめは寝袋のように使えるタイプの防災ブランケットです。

女性の視点を取り入れよう

企業防災の担当者の多くは男性です。

男性の防災担当者にとって注意が必要なのが女性に配慮した備蓄品の準備です。例えば、女性と男性の居場所を別の部屋とするか、それができない場合は間仕切りやカーテン等が必要になります。これについては、オフィスの形態や女性の男女比によって対策が異なってきますので、企業に合ったやり方を工夫してみてください。

他に男性視点では気付きにくいものの例として生理用品があります。生理用品は人によって使っているものが違うので、会社側で用意するは難しいところです。各自ロッカーに1週間分程度保管しておくよう呼びかけるのがいいでしょう。

このような多少デリケートで男性社員からは言いにくい話もありますので、防災担当者を選任するときはなるべく女性をメンバーに入れるようにすることをおすすめします。

緊急警報放送対応のラジオを用意しよう

意外に忘れがちなのがラジオの準備です。最近ではスマホやパソコンでインターネット回線を使って情報収集するのが当たり前になっていますが、停電してしまうとインターネットは使えません。スマホでも基地局が被害を受けると繋がらないですし、そうでなくてもアクセスが集中して平常時ほどスムーズに情報収集することは難しいと考えられます。スマホはバッテリーの消費が激しいので使える時間が長くないというのも大きなデメリットです。

そのため、備蓄品には最低でも1台ラジオを準備しておくことをおすすめします。

ラジオには、津波情報等の緊急警報放送を受信すると自動的に電源がオンになり放送が始まるタイプのラジオもあります。せっかく準備するならこちらのタイプを用意し、備蓄品としてしまっておくのではなくオフィス内に置いておくことをおすすめします。

なお、ラジオには防災でソーラーや手回しで充電可能なタイプもありますが、電池だけで数十時間持ちますので、あまりこだわる必要はありません。電池切れが不安な場合は予備の電池も用意しておきましょう。

停電対策もしっかりしておこう

停電していると夜は真っ暗になりますので、夜に行動する場合には灯りを用意する必要があります。非常時の灯りというと世代によってはロウソクをイメージしますが、火事の原因になりますし、広い事務所を照らすには心もとないです。

キャンプなどで使う天井から吊るすタイプのLEDランタンがおすすめです。ランタンを選ぶ際には利用する部屋の広さに注意していくつか用意してください。

また、暗い中で何かの作業をする場合には懐中電灯が必要です。両手が使えるヘッドライトタイプの懐中電灯をおすすめします。

BCPの観点からは、事業内容によっては非常用電源をあらかじめ準備しておく必要があります。テナント入居しているのであればビルの管理者に停電対策の実施状況を確認してみてください。

少し長期的な視点になりますが、東日本大震災のように計画停電が実施される可能性もありますので、電力が必須の事業であればBCPの観点から発電機等の非常用電源は必ず必要になります。非常用電源を導入した場合は、平常時に定期的に訓練しておくことも重要です。

小型発電機はガソリンのイメージが強いですが、カセットコンロのようなガスボンベタイプもあります。オフィスにガソリンを備蓄するのはいろいろと問題もありますから、PCなどの電源確保にはガスボンベタイプの発電機をおすすめします。

救出用備蓄品を準備しよう

 

地震等の災害では建物の一部が倒壊したり、棚が倒れてきて、下敷きになった人を救出する必要があるかもしれません。震災では救急・消防の要請が追いつきませんので、周りにいる人達だけで救助する必要があります。倒壊建物からの救出時によく使われるのはバール、ジャッキ、のこぎりの3つです。この3つは自主救助三種の神器ともいわれています。

バールは歪んだドアなどをこじ開けるのに使います。ジャッキは重いものを持ち上げるのに使います。のこぎりは木造建築物の倒壊した柱を切断するのに使います。どれも阪神淡路大震災では大活躍した工具ですので、少なくとも1つずつは揃えておくことをおすすめします。

また、建物が2~3階建ての場合には、はしごを準備しておくと、1階への階段が使えなくなっても脱出できます。この他、消火器やAED等の導入もおすすめします。

娯楽用品を用意しよう

 

企業用備蓄品、1週間乗り切る、という意味ではやや蛇足とも言える物ですが、防災備蓄品の盲点とも言えるポイントですので最後にご紹介しておきます。

災害時には長期間停電が続くことが考えられますが、日常的にスマホやテレビ等の電気を使う生活をしている現代人にとって停電は大きなストレスです。被災で精神的体力的に持疲れているのに娯楽も満足にないからです。

このような状況で意外に流行するのが電気を使わないカードゲームやボードゲームの類です。大きな災害時に避難所等で知らない人同士でも楽しめるのが大きなメリットだったようです。

こうしたゲーム類をあえて備蓄することが妥当かどうかはわかりませんが、被災時には物理的な物資だけでなく精神面を支えるような配慮も必要と言えようかと思います。

最後に

できるだけ多くの事柄に留意して記載していますが、これらはあくまでも一例に過ぎません。必要な全てを記載したわけではなく、逆に企業によっては不要な対策もあるはずです。

総務や防災担当が把握していないだけで、部署が独自になにか対策している場合や、入居先のビルで防災対策がされている場合もあります。有限なコストを効率的に配分するために、まずは自社、そして取引先や地域等の自社との関係先との連携を図り、それができた上でご紹介した内容を実践していただきたいと思います。

御社にとって本当に必要な備蓄品やノウハウは、御社をよく知っている立場にしかわからないことです。最初にも書きましたが、「わが社ではどうだろう」という視点を常に持ち企業防災にお取り組みください。

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