生活保護利用を希望する方からの質問の多い自動車の保有が認められる場合について解説します。
生活保護利用中も自動車を使用したい方、認められるかどうかの考え方の参考になれば幸いです。

生活保護で自動車の保有が認められない理由

最初に、そもそもなぜ生活保護で自動車が保有できないのか、考え方を正確に理解しておく必要があります。
生活保護利用の要件は、生活に困窮している方が「資産」や「能力」などを「活用」していることとされてます。(生活保護法4条1項)
働ける「能力」や処分することでお金になる「資産」があれば生活できるはずですから生活保護は利用できません。
自動車は「資産」にあたりますから「活用」、つまり原則として売却することが生活保護利用の要件ということになります。

生活保護利用時は自動車を処分するのが原則

では、自動車の中古買取査定価格が0円の場合はどうでしょうか。
この場合は「資産」として「活用」ができないのですから、保有を認めてもいいように思えるかもしれません。
しかし、実際の運用では自動車は「最低生活の内容として所有又は利用を容認するに適しない資産」とされており、買取査定価格に関係なく処分するのが原則とされています。

これは自動車には車検代、保険料などの維持費がかかり、生活保護利用者の生活を圧迫するおそれがあるためです。
また、生活保護を利用していない低所得者層の自動車保有率が低く、自動車は贅沢品だと考えられているのも理由の一つです。
自動車が贅沢品だとの理由は時代錯誤な面があり、改善が求められているところです。
しかし、利用者の自動車保有については厳しい対応がなされているのが現状であり、例外的に保有が認められるのは下記の場合に限定されてきます。

例外的に生活保護利用者に自動車保有が認められる場合の考え方

生活保護利用者であっても自動車が生活に欠かせない場合や、生活保護利用者の自立を助長する場合には保有が認められる可能性があります。

生活に欠かせない場合としては、電車やバス等の交通インフラが不十分で通勤や通院に利用できないとか、病気や怪我で利用が難しい場合が考えられます。

一般論として、当事務所の所在する兵庫県阪神地区などの交通網が充実している都市部では、基本的に電車やバスで事足りますから自動車の保有は比較的難しいと思われます。
保有が認められるには、生活保護利用者に電車やバスを使えない事情(例えば深夜勤務で電車がない)がある場合などに限定されてきます。
「自動車は維持費がかかるし無理に保有する必要もない」と割り切ってしまうのも一つの考え方と言えるでしょう。

これに対して、交通インフラが脆弱な地域では、通勤や通院に自動車が必要な場合も少なくありません。
この場合は生活に欠かせないものとして認められる可能性が都市部と比べると高いと言えるでしょう。

生活保護利用者に自動車保有が認められているケース

次に、生活保護利用中の自動車保有が認められることが明示されている場合について具体的に見ていきます。

生活保護の利用が短期間の場合

まず、病気や怪我などで生活保護利用が短期間(約6ヶ月)で終了すると見込まれる場合は、処分指導が留保され自動車を引き続き保有できる可能性があります。

自立後に自動車が必要になると見込まれること(例:通勤に必要になると見込まれる場合)が条件となっています。
生活保護利用者が自動車購入費用を貯蓄するのは大変なことですから、売却して自立後に買い直すよりも保有していた方が生活保護利用者の自立助長に資すると考えられるためです。

また、自動車の価値が低いこと、維持費は生活保護から拠出されませんので生活保護利用中の維持費が捻出ができることも条件となります。

当初6ヶ月程度で生活保護利用が終了すると見込まれた場合でも、利用期間が長引き6ヶ月以上経過した場合には福祉事務所から処分するよう指導されることになります。
ただし、自立のための活動を行っている場合は1年まで延長(個別事情によってはさらに延長)されますので、延長を希望する場合は状況を詳細にケースワーカーに報告すると良いでしょう。

なお、保有が認められたとしても、この場合は福祉事務所による処分指導が留保されている状態に過ぎませんから、生活保護利用期間中の自動車使用は禁止されます。
病気・怪我が治って再就職活動する場合でも原則禁止となりますので、電車やバスなどの公共交通機関を利用することになります。
それが困難な事情がある場合には福祉事務所に説明して処分指導をしないよう求める必要があります。

通勤に必要な場合(保育園への送迎も含む)

公共交通機関が通勤経路に存在しない場合や深夜勤務のため利用できない場合などの事情がある場合には、自動車の保有が認められる可能性があります。

この場合でも、自動車勤務が自立を助長すると認められること自動車の価値が低いことが条件となります。
また、お住いの地域の自動車普及率や低所得者世帯とのバランスも考慮されます。
さらに、自動車維持費は収入から捻出する必要がありますので、収入額が維持費を大きく上回ることが必要となります。
ただし、障がいをお持ちの方の自動車通勤については、これらの条件は課されないとされています。

なお、通勤に伴い子どもを保育園に送迎する必要がある場合にも保有が認められる可能性があります。
もっとも、この場合は原則として自動車送迎の不要な保育園への転入を指導されることになります。
保育園が他にないなどの理由で転入が不可能か難しい事情があると福祉事務所が判断した場合に限り保有が認められます。

通院に必要な場合

障がいや怪我・病気などの治療のために通院が必要で、公共交通機関の利用や病院などの送迎サービスの利用が不可能か著しく困難な事情がある場合に、自動車の保有が認められる可能性があります。

著しく困難な場合とは、車いすなどの身体障がいにより公共交通機関での移動が難しい場合のほか、精神疾患等を理由に周囲に多数の人がいる場所にいることが難しい場合なども含まれます。
どのような怪我や障がいがあり、なぜ公共交通機関が利用できないのかを丁寧に説明することで認められる可能性は高くなるでしょう。

通院の必要性については、単発での利用ではなく、定期的に通院が必要なことが明らかであることが条件となります。
通院頻度は問われません。

自動車の価値が低いこと、必要最小限の自動車であることも条件となります。

なお、自動車の維持費は生活保護費からは支給されませんので、他施策の活用や親族などからの援助が得られることが条件となります。

事業に使用する必要がある場合

事業をしながら生活保護を利用することも考えられますから、事業に自動車を使用する必要がある場合には保有が認められる可能性があります。
この場合、自動車の利用価値が処分価値を上回ること地域の低所得者層とのバランスが取れていることなどが条件となります。

保有が認められる自動車の条件

どのような自動車でも保有が認められるわけではありません。

保有が認められるのは必要最小限の自動車とされており、具体的には排気量がおおむね2000cc以下の自動車を指します。
もちろん事業用自動車などで大きな排気量が必要な場合には保有できる場合もあります。

また、処分価値が小さいことが条件とされており、高級車など資産価値が大きい場合には処分するよう指導されます。
場合によっては自動車に買い替えを指導されることもあります。

なお、バイク・原付についても保有が認められる場合があり、125㏄超のバイクは自動車と同じ要件ですが、125cc以下では要件は緩くなります。

自動車ローンが残っている場合

自動車ローンが残っている場合は、上記の保有が認められる場合に該当したとしても処分することになります。
保有するとローンを生活保護費から支払うことになり、生活保護費での自動車の購入を事実上認めることになるためです。

ただし、ローンが完済間近の場合は保有が認められる可能性もあります。

目的外使用は禁止される可能性が高い

自動車の保有が認められた場合でも、基本的に目的外使用は禁止されると思われます。
自動車の保有はあくまでも例外的となっているためです。

しかし、通勤経路にあるスーパーに帰宅時に買い物をすることまで禁止するのは不合理ですし、帰宅してから徒歩で買い物に行くよりも、利用を認めた方が自立助長に繋がると考えられます。
生活保護利用上の支障が大きくないと思われる目的外使用については、申請する際にあらかじめ事情を説明し、その形態での利用を禁止しないよう求めることで認められる可能性はあると思われます。

自動車保有は必要性を丁寧に説明できるよう準備することが重要

以上の通り、生活保護を利用しながら自動車の保有をするのは原則禁止という運用がされています。
例外要件も厳しく、福祉事務所の判断で決まる部分も大きいですから、自動車の保有を認められるためのハードルは高いと言えます。

福祉事務所に保護申請する際には、自動車保有を求める申立書や処分指導の保留を求める申立書を提出することになります。
保有が認められる条件は明確ですから、後は申請する側が自動車保有が必要な事情や維持費の捻出ができることを丁寧に説明することが重要です。
特に、保有できる自動車の要件に当てはまらない場合や日常の目的外使用が必要な場合など、保有が必要な理由、維持費捻出が生活に支障がない理由などを説得的に説明できるよう準備することが重要と言えます。

 

当事務所では、尼崎市・西宮市・芦屋市・神戸市・伊丹市・宝塚市など兵庫県阪神地区・大阪市やその周辺地域の方に、特定行政書士が生活保護の申請代行・同伴サービスを行っています。
自動車保有を希望するご依頼者様には、丁寧にヒアリングしたうえで、説得力のある自動車保有を求める申立書・処分指導の保留を求める申立書を作成いたします。
自動車を保有できるかどうかについては個別面談でより詳しくご説明可能ですので、ご関心がございましたらお問い合わせフォームまたは電話にてご相談ください。